2008.10.16.Thu / 20:16 
さて、記念すべき300話までのカウントダウンが始まりましたが、諸事情により滞っていたゲンさん(『解体屋(こわしや)ゲン』)感想も、一昨日の記事に書いたように、まだ未アップの感想はありますが、カウントダウンを優先し、とりあえず第295・296話の感想から再開する事にいたしました(明日には第297話掲載の最新号も発売されるしね)。

さあ、それでは始めましょうか。

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『解体屋ゲン』
第295話「消えた職人」
(ストーリー)

ある日ゲンさんは、職人仲間である「イチさん」こと市井さんの家の電話が通じない為に心配して訪ねて行ったが、彼は家にはおらず、息子が河原で見掛けたという隣人の言葉を頼りに河原まで捜しに出掛ける。

河原に着いたゲンさんは、イチさんの手掛かりを見付けようと歩いているうちに足元の草やツツジが綺麗に刈り込まれているのに気付き、もしかしたらと思いその先を歩くと、そこには酒のケースらしき物やシートで造られた粗末な小屋と、その前で鍋を火に掛けている職人姿の老人の姿があった。
そう、その人こそゲンさんが探していた植木職人のイチさんだった。

どうしてここが分かったのかと驚くイチさんにゲンさんは、五友爆破が緑化事業を始めたから植物の管理を任せられる人材として植木職人である彼に仕事を頼もうとするが、何故か彼は、自分はもう植木は止めた、植物を見るのも真っ平だと強い調子で言う。
だがゲンさんは、ここまでの道の植物が綺麗に剪定されているところからイチさんがまだ植木に未練がある事を見抜いてそれを指摘し、ようやく彼が植木を止めようとした事情を聴く。

日も暮れて寒くなった河原で、焚き火を前にイチさんが語るには、この不景気で仕事が減少しても変わらずに贔屓にしてくれたある家の御隠居さんが、会社の経営が苦しい息子と、自分の事で言い争っているのを聞いてしまい、御隠居さんの心遣いはありがたいと思ったが居たたまれず、自分が姿を消すのが最善の方法だと思いホームレスとして暮らす事にしたのだそうだ。
その事情を聴いたゲンさんは、色々面倒もあるがこの暮らしも気楽で悪くないというイチさんに、良かったらうちに来ないかと言うが、人と関わり合うのは真っ平だと言う彼の強い言葉に黙り込むと、また来ると言い残して今日のところは引き下がる事にした。

元来た道を帰ろうとするゲンさんは、足元の地面にまだ新しいタイヤと靴の跡があるのを見て訝るが、イチさんの「色々と面倒もある」という言葉を思い出すと何かに気付く。

そして夜遅くの河原。
小屋の中で近付いて来るバイクのエンジン音を聞いているイチさんは、何かを決心したように傍らに置かれた剪定ばさみを手にする。

エンジン音の正体は、薄汚い三人の若い男が分乗した二台のバイクで、奴等は金属バットや鉄パイプらしき物を手にすると、掃除の時間だと叫んで河原の小屋を叩き壊し、奇声を上げて小屋から飛び出したホームレスを殴り付けている。
剪定ばさみを手に、バイクから降りてホームレスの一人を二人掛かりで殴り続けている薄汚い男の方へ駆け出して行ったイチさんは、帰って行った筈のゲンさんが、薄汚い男どもに向かって一体何の真似だと怒鳴り付けているのを見た。

ゲンさんは、ホームレスを獲物や野良犬呼ばわりし弱い者苛めを社会に代わっての制裁と正当化する薄汚い男どもに対して、彼等はなりたくてこうなった訳じゃない、お前等こそ正義面してやっている事は動物以下じゃないかと言い放つ。
そこに、薄汚い男の一人がバイクで突進してゲンさんを轢き殺そうとするが、それを避けたゲンさんは男の首を抱え込むように殴り付けて片付け、イチさんの声で二人目の男の攻撃に気付くと、バットで殴りかかろうとする男の腹に頭から突進して片付けた。

残った男は、腹の据わったゲンさんの迫力に恐れをなして退散し、心配して駆け寄ったイチさんは、人と付き合うというのはこういう事だというゲンさんに、お前ほどお節介な奴はいないなと言う。
それを受けて、俺は人一倍お節介だというゲンさんは、お節介ついでにイチさんに会わせたい人がいると行って光を呼ぶ。

イチさんは、光に付き添われて来た御隠居さんを見て驚き、御隠居さんは自分のせいで彼に余計な気遣いをさせてしまった事を詫びると共に、長い付き合いなのだから仕事は関係なく友人として戻って来て欲しいと彼に言う。
そしてゲンさんは、御隠居さんの気持ちに打たれて涙を流すイチさんに、やっぱり人と人との関わりはいいものだろうと言う。



第296話「美の基準」
(ストーリー)

五友爆破の事務所では、ゲンさんが緑化事業の責任者を引き受ける事になったイチさんを皆に紹介するが、彼は慶子さんを初め美人揃いの職場に何故か緊張している。
話を続けようとしたゲンさんは、「美人」と言われて機嫌が良くなった光と有華にイチさんがオモチャにされているのを見て、早速河島先生と共に彼に現場を見て貰おうと出掛ける。

現場に着いたイチさんは、初めて見る緑化されたビルに感心するが、屋上に上がって河島先生とゲンさんから緑化事業の植物は基本的に剪定をしないと説明されると、あまり納得していない様子で返す。

やはりイチさんは納得していないようで、事務所に帰るなり河島先生と激しく植木職人と植物学者の観点から来る持論を戦わせるが、彼が植木の剪定を女性の化粧に喩えたのを切っ掛けに、そこから慶子さん達女性陣までもが年齢と化粧について激しくやり合ってしまい、収拾が付かなくなったゲンさんは慌てて事務所から逃げ出す。
逃げた先の現場でゲンさんは、作業をしていたヒデに二つの喧嘩のいきさつを話すが、河島先生とイチさんの喧嘩をどう収めるのかと訊かれ、とりあえず次の休みに二人を家に呼び、酒でも呑めば打ち解けて仲直り出来るかもしれないだろうと言う。

そして日曜、アパートの門の前でイチさんと河島先生は鉢合わせるが、まだ仲直りしていない二人は相手に気付くとそっぽを向く。
二人が来たのに気付いたゲンさんは、慶子さんは買い物に出て自分は掃除の最中だから、庭で遊んでいる鉄太くんの様子を見てくれと二人に言う。

鉄太くんが手招きして呼ぶのに気付いて後を付いて行った河島先生は、プランターに植えられた植物がアパートの一階部分の屋根に向かって見事に緑のカーテンを作っているのを見て感心する。
そして一緒に付いて行ったイチさんは、その植物の実を指さして「キュウリ」と言う鉄太くんに、これは「ヘチマ」だと教え、ゲンさんが自宅でも緑化を実践している事に感心する河島先生にこのヘチマも自然の緑化なのかと問い掛けて先日の論争の続きを始める。

互いに持論を譲らずに言い争うイチさんと河島先生だったが、せがまれてヘチマの実を取ってやったイチさんの何気ない一言に反発した鉄太くんの言葉にハッとした二人は、植木も自然もどちらも生きている植物なのだという基本的な事を思い出したようだ。
そこに掃除を終えたゲンさんも現れ、人の手が入るか入らないかに関わらず植物は与えられた環境で精一杯生きている事、河島先生とイチさんの考えは正反対のようで近い物があるという事を指摘すると、鉄太くんの持っていたヘチマの実を取り上げて底の皮を破って種を出して見せ、子供でも直感的に植物が人間にとって欠かせない大事な物だと解っている、何処まで人の手を加えるか自然に任せるかは皆でゆっくりと議論すればいいと言う。

その言葉を聴いた河島先生は、ようやく態度を軟化し、植物の管理をイチさんに一任する。
二人が和解してゲンさんと共に笑い合っている所へ、秀美、光、有華を連れて外出から帰って来た慶子さんが彼等に声を掛ける。
こちらも仲直りしたらしい慶子さんは、急に出掛ける事にしたからゲンさん達の為に寿司を頼んでおいたと言い、女性陣は皆でエステに出掛ける。
あれだけ激しかった女性陣の喧嘩があっけなく収まったのを見たゲンさんは呆れたように溜息をついたが、気を取り直してイチさん、河島先生と共に寿司を囲んで和やかに酒を酌み交わす。


(二話まとめての感想)
さあ、ゲンさんファミリーに新たな仲間であるイチさんこと植木職人の市井利光(いちい としみつ)さんが加わりました!(……と書いたけど、もしイチさんの出番がこの二話限りだったらどうしよう)

緑化事業が順調に進んでいる事は喜ばしいし、こうして新たな仲間が増えて行く事でゲンさんの物語にさらなる広がりが出る事を期待したいです。

まずは第295話「消えた職人」についての感想を。

最初に読んだ時、後半のホームレス狩りのくだりに胸が痛くなりました。

ここ数年、この不況による生活の苦しさのはけ口としてホームレスを標的にする事が(ホームレス狩りのような直接的な暴力に限らず、ネット上などでの差別的な言説を含む)以前にも増して増えているような気がするけど、この回に登場する薄汚い三人の若い男が、「逃げるだけの獲物にゃ飽き飽きしてたんだ!」だの「税金も払わず残飯あさっている連中なんてそこら辺のノラ犬と一緒さ! 殺されたって文句ねえだろ!!」だの「みんな内心そう思ってんのさ だからオレたちが社会にかわって片付けてやる」だのと、台詞を引用する為にタイプしている指が腐りそうな勝手な言葉で自分達の薄汚い行為を正当化し、社会から弾き出されて逃げ場のないホームレス達に危害を加えているのを見て、腹の底から憤りを覚えました(この作品はフィクションだけども似たような事件は現実に起こっている)。

確かに中には好きでホームレスとして生活している人もいるかもしれないが、彼等の大半は、ゲンさんが「違う! みんななりたくてこうなったわけじゃねえ!」と言うように、失職や病気などにより、どんなに足掻いても人並みの生活水準を保てずにホームレスとしての生活を余儀なくされている人なのではないか。

今の世の中、何時どんな事が切っ掛けで仕事も家も失い、彼等と同じ境遇に陥るかしれないのに(自分もここ数年、将来に対してそのような不安を常に感じている)、自分だけはそんな境遇に陥らないという自信でもあるかのように(あるいは自分も彼等のようになるかもしれないという不安を打ち消す為になのか)ホームレスや彼等を支援する人達に対して血も凍るような寒々しい言葉を発している人間がいる現実を感じ、そんな奴等の声が大きく感じるだけなのかもしれないけど、時々生きていて周りの人間が恐ろしく思える事があります。

何処かの誰かが自分の責任逃れのツールとして使い始めた「自己責任」という言葉が急速に広まってから(この言葉自体は昔からあるが、その使われる意味が急変したのはここ数年だろう)、日本人の心から急速に優しさが消えて行ったような気がするが、他人の不幸な境遇は全て当人の「自己責任」もしくは「甘え」として定着しつつある現在は、ホームレスだけでなく、「ネットカフェ難民」や「ワーキングプア」などの言葉も現実的な社会問題というより相手を蔑む為のツールと化している(問題を置き去りにして言葉だけが負のイメージを拡大して一人歩きしている)ように思う。

そんな中、フィクションの登場人物とはいえ、ゲンさんのように他人の痛みを自分にも起こりうる物だと感じ、苦しんでいる人達に危害を加える奴等に立ち向かおうとする人は本当に素晴らしいと思うし、自分もその何分の一でもいいから勇気を持たなくてはと思いました。

……長々と柄にもない社会批判みたいな事を書き過ぎたのでここらで止めますが、イチさんが人との関わりを断ち切ろうとした切っ掛けとなった御隠居さんと息子の諍いも、どちらも悪くはないからかえって辛く(イチさんとの付き合いを大切に考える御隠居さんも、苦しい会社の経営を第一に考える息子もどちらも間違った事は言っていないと思うから)、自分が消える事で二人の諍いを止めようとしたイチさんの気持ちを思うと遣り切れなさを感じましたが、それだけに、事情を察したゲンさんが御隠居さんをイチさんの元に連れて来たラストは、甘いかもしれないけど救われた気持ちになりました。

最後になりますが、現実の世の中も、ラストでゲンさんが言うように「人と人とのかかわりって いいもんだろ?」と思える世の中であって欲しいと思います。


そしてここからは第296話「美の基準」の感想です。

前回が個人的に読んでいて重苦しかったのと対照的に、この回は仕事絡みの話にも関わらず肩の力を抜いて楽しめました(所どころに笑いを誘う場面があったしね)。

「頑固な二人が最初は対立するが、ふとした切っ掛けで打ち解け和解する」というシチュエーションは私の好きなストーリー展開の一つですが(この作品ではヒデとロクさん、ロクさんと秀美の初対面のエピソードがこのシチュエーションに沿っていますね。あれっ、他にもあったかな?)、その発端となったイチさんと河島先生の対立が慶子さん達女性陣にまで飛び火するとは思いませんでした。

緑化事業の植物は基本的に剪定をしないと知ったイチさんと河島先生が口論の中で「だいたい女の化粧だってそうだろうがっ ほどよく塗ってやりゃ元の何倍も美人になるだろうが!!」「フン!そんなもん素肌美人に比べればしょせん人工の美… 作り物じゃ!」と言うのを受けた光が「まあ~ たしかに人前にすっぴんさらせるほど美人なら化粧はいらないわよねェ」と話を広げたせいで、きっちりメイク派(?)の慶子さんと有華、ナチュラルメイク派(?)の光と秀美が対立するのだから、そりゃあゲンさんも呆れて逃げ出したくなるってもんでしょう(ここの場面で、「まったく どいつもこいつも勝手にやってろよ」と言って事務所を飛び出したゲンさんが走って逃げて行く後ろ姿が小さく描かれているのが可愛らしかった)。

それにしても、高校生と間違えられたのを喜んでいる(らしい)秀美に、(有華の「それってガキっぽく見られたってことでしょ そんなのがうれしいの?」という言葉に同調して)「そうそう 若づくりってかえって見苦しいわよ」とサラリとした顔で言うこの回の慶子さんって、本当に毒舌家ですよね……

話はガラリと変わりますが、今回の主題に関わるイチさんと河島先生のそれぞれの立場に基づいた持論や信念は、一見正反対なように見えるけど、ゲンさんの言うように、良く考えると近い物があるんですね(植木職人と植物学者という違いはあれど、植物を愛する心は二人とも同じだし)。

そんな二人が、鉄太くんの言葉の中の「ほんもの」という一語から(正確には、ヘチマの実をイチさんに取ってもらった鉄太くんが、「ほらよ ぼうずにゃいいオモチャだな」と言われてムッとした顔で「オモチャない! ほんもの! ほんもの!!」と言う)自分達の議論で置き去りにされていた大事な事に気付かされ、その後のゲンさんの言葉でようやく和解する場面は本当に良かったです(一つ気になったのだが、河島先生に植物の管理の決定を一任されたイチさんが、ゲンさんに「だからって角刈りはやめてくれよ」と言われて「バカ野郎 オレにだって分別ってもんがあんだよ!!」と返す場面、最初読んだ時はイチさんが頭に手を当てているから「あれっ、角刈りって髪型の事なのか?でもどう見てもイチさんは角刈り頭じゃないし……」と勘違いしたけど、これって正しくは植木の刈り込み方の「角刈り」について言っているんだよね?)。

それでは最後になりますが、緊張したイチさんが「だっておめえ まさかこんな美人ばっかりの職場だなんて聞いてねえから……」と言うのを聞いた途端に機嫌が良くなった慶子さん達女性陣が(特に光と有華)、ゲンさんが話を続けようとしているのも構わずに赤くなっているイチさんにサービスしている場面が、上に書いた「事務所を飛び出して逃げて行くゲンさんの後ろ姿」の場面と並ぶ今回のお気に入り場面です(あと、ラストの和やかに酒を呑んでいるゲンさん達のカットも良かったな)。

さて次回は、予告煽りによるとゲンさんが「ありとあらゆる職人との交渉で築きあげた人脈をより有効に生かすためにネットワークを作る」話だそうです(この内容が一話全ての話なのか、それともこれは導入部なのかは現時点では判らないが)。

まだ本調子でないので発売日である明日当日のアップは無理だと思いますが、気長にお待ち下さい。

それでは、次回のゲンさん感想をお楽しみに(久し振りにこのフレーズを使うなあ……って自分が感想をサボらなければ良かっただけですよね。と少し反省)。
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プロフィール

須藤泰昭(すどやん)

Author:須藤泰昭(すどやん)
岐阜県西濃地方在住。
1970年生まれ。
趣味・テレビ番組の録画
    映画の廉価盤DVD収集
好きな数字・7の倍数

飼い猫の「わく」ちゃんです。
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